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STUDY

2022.1.21

西洋美術史を流れで学ぶ(第16回)~ロココ美術編~

なぜか高尚に語られがちな西洋美術史について、あくまでフランクにおもしろおかしく紹介していくこの企画。前回と前々回はとにかく「国王を称えよ!」というノリで政治利用されつつ、ダイナミックな表現に進化していった「バロック美術」を紹介しました。

▼前回記事はこちら
西洋美術史を流れで学ぶ(第15回)~オランダ・バロック美術編~
https://irohani.art/study/5696/

第16回は、そんなバロック美術の反動で18世紀に流行する「ロココ美術」についてみていきます。今でもインテリアショップにいくと「ロココ調」なんて文字を見かけますよね。アレです。ロココ美術はどんな特徴があり、なぜ流行ったのかを、今回もフランクにみていきます。

ロココ美術前のフランスは「ルイ14世の“圧迫感”」に嫌気が差していた

ロココ美術の舞台となるのは「フランス」です。バロック美術時代のフランスでは王家を盛り立てるのが役割でした。その背景にいたのが太陽王・ルイ14世です。

ルイ14世の肖像ルイ14世の肖像  Hyacinthe Rigaud, Public domain, via Wikimedia Commons

「朕は国家なり」で有名な方ですね。この言葉の背景には「王権神授説」という「神が王に任命したのだから、王が最強な。国民は王に逆らえないぜ」というやべぇ考えがあります。それほどまでに絶対王政であり、彼はなんと72年間もフランス王でした。

だから彼のいたバロック美術時代はとにかくダイナミックな表現が特徴。「見て!王家ってこんなにかっこいいのよ!」とアピってたんですね。

また第14回の記事でも触れた通り、カトリック教会が信者を増やすための「広告」としても活用していました。

そんなルイ14世の晩年期はもう戦争のし過ぎでフランスはめっちゃ貧乏になっており、国民も「何が太陽王だよこの野郎」みたいなピリピリムードでした。そして彼は1715年に崩御。すると「やっと太陽王の圧迫から解放されたわ。長かったわ~」と民衆は安堵し、葬列には罵声が飛んだといいます。

ロココ美術とは圧迫政治の反動で生まれた開放的で自由奔放な表現

そこで生まれたのが「ロココ美術」です。対象は「王」ではなく「個人」に向けた作品となり、主に貴族たちがパトロンとなりました。また特徴としてはとにかく「超自由奔放」。「ちょっとコンプラ的にアウトだろ」みたいなテーマを軽やかに描きます。

ヴァトーの雅宴画がロココ絵画の出発点に

アントワーヌ・ヴァトー『シテール島への巡礼』アントワーヌ・ヴァトー『シテール島への巡礼』 Jean-Antoine Watteau, Public domain, via Wikimedia Commons

なかでもロココ絵画の先駆けとなったのがアントワーヌ・ヴァトーです。彼は一般の人たちの生活を描く風俗画を多く描きました。バロックのころは王家や教会に捧げるものだったので、宗教画、歴史画といった“カッチリしている”作品が多いんですけど、ヴァトーの雅宴画はその辺にいる貴族たちの日常的な戯れを描いた作品です。タッチも、線をはっきり描かずにぼかしている。こういった部分が「ロココっぽい軽快さ」なんですね。

ロココ美術には「エロチックな絵画」も

「コンプラ的にアウトな作品が多い」と先述しましたが、もうひと言で言っちゃうとちょっとエロい絵画もたくさん生まれたのがこの時代。ルイ14世の治世では絶対できなかったヤツです。

例えばフランソワ・ブーシェさんは裸体画を多く描きました。

フランソワ・ブーシェ『水浴のディアナ』フランソワ・ブーシェ『水浴のディアナ』 François Boucher, Public domain, via Wikimedia Commons

この作品は女神・ディアナを描いた歴史画ですが、舞台は現世の三次元であり、ディアナもめっちゃ可愛く描かれています。このころは宗教画や歴史画でしか裸体を描けなかったので、テーマを(たぶん、しぶしぶ)神話にしていますが、ブーシェは性愛をテーマにした絵画を多く作ったロココを象徴する画家です。

ジャン・オノレ・フラゴナール「ぶらんこ」ジャン・オノレ・フラゴナール「ぶらんこ」 Jean-Honoré Fragonard, Public domain, via Wikimedia Commons

この「ブランコ」はおそらくロココ美術で最も有名な作品なのではないでしょうか。「男爵がブランコに乗る愛人のスカートの隙間から生足を覗いている」絵です。ええ、それ以上でも以下でもありません。

この絵は「司教が押すブランコに愛人を乗せ、その正面に『スカートを覗く私』を描いてくれ」というサン・ジュリアン男爵のやけに具体的な発注に応えたものだそうです。ただし司教のみ、愛人の実の夫をモデルに描いています。

一人目の画家に「(え、何言ってんの、このエロ男爵……)」と断られ、フラゴナールに発注がきました。この紅潮した男爵の頬と、見下ろす愛人の笑っていない眼がヤバいですよね。自由奔放でロココ感MAXなこの作品は、画壇では「不道徳すぎてヒくわ」と不評でしたが、当時の開放感にあふれた市民たちには大好評で、版画に印刷されて売れまくったそうです。

ちなみにディズニーはこの作品が大好物で、「塔の上のラプンツェル」のビジュアルイメージに採用されているほか、「アナ雪」の「ひそかにいのーろーう♪」と歌うシーンでも登場しますね。幽閉されたラプンツェルが軽快に外に出ていく心境や、アナが城門を抜け出すときの開放感と、ロココの自由な表現に重ね合わせているのかもしれません。

実はバロック、ロココの背景にあった「アカデミー」という存在

今回はルイ14世の支配から解放されて浮かれまくっているロココ美術を紹介しました。しかし今見ても可愛らしい作品の数々で最高ですよね。実際、今でもロココ調の机とか椅子は人気が高いです。

前々回、前回、そして今回と、バロック、ロココの作品を紹介してきました。こう描くとルイ14世がめちゃめちゃ悪者みたいに見えますが、彼なくして西洋美術の文化が育たなかったのも事実です。なかでも彼の偉大な発明が「アカデミー」と「サロン」。簡単にいうと美大を作って、展覧会を開いたわけです。


次回は時系列を少しさかのぼってしまいますが、この「アカデミー」と「サロン」について、たのしく見ていこうと思います。

▼次回記事はこちら
西洋美術史を流れで学ぶ(第17回)~アカデミーとサロン編~
https://irohani.art/study/6691/

【写真4枚】西洋美術史を流れで学ぶ(第16回)~ロココ美術編~ を詳しく見る
ジュウ・ショ

ジュウ・ショ

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アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。

アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。

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