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2024.6.7

上野の森美術館『石川九楊大全』!書家、石川九楊の全書業が東京で公開

1945年に福井県にて生まれた書家、石川九楊(いしかわ・きゅうよう)。現代における書の美を追究し、「書は筆蝕の芸術である」ことを解き明かすと、言葉と格闘し続けながら2000点にも及ぶ作品を生み出してきました。

『「ヨーロッパの戦争」のさなかに──人類の未熟について』 2023年

その石川九楊の大規模展覧会「石川九楊大全」が、6月8日から7月28日まで、東京・上野の森美術館で開催されます。書表現により時代を反映した作品を書き続けてきた九楊の創作の魅力とは?見どころを紹介します。

前期と後期で全点入れ替え!前期【古典篇】の内容とは?

『源氏物語書巻五十五帖「若菜 上」』 2008年

まず注目したいのは、九楊の作品の全容を明らかにするため、選び抜かれた300点あまりを「前期【古典篇】 遠くまで行くんだ」(会期:6月8日〜6月30日)と「後期【状況篇】 言葉は雨のように降りそそいだ」(会期:7月3日〜7月28日)に分けて展示することです。よって作品はひと月の会期ごとに全て掛け替えられる、2つの異なった展覧会となります。

では早速、6月開催の【古典篇】の内容を見ていきましょう。ここでは既成の書的情緒を否定、あるいは拒絶してきた九楊が、新たな領域への序章として挑んだ古典文学を題材とした作品が公開されます。

『歎異抄 No.18』 1988年

『源氏物語書巻五十五帖「若菜 上」』とは、「源氏物語」五十四帖に題名だけの「雲隠」を加えて「源氏物語 書巻五十五帖」とし、各帖を象徴する箇所を、書の表現の可能性を極限まで押しひろげようと試みた作品です。また『歎異抄 No.18』とは書き上げるのに約8ヶ月を要した大変な労作。親鸞の「歎異抄」全文が書き込まれています。

画像4:『徒然草 No.22』 1993年

『徒然草 No.22』とは、「あやしうこそ物狂ほしけれ」という徒然草の世界を、早く書いたすがたを遅い速度で再現した作品です。細かい純白と、隙間すらない漆黒の両方を書きあげました。このほかには中国の「李賀」の詩などに取り組んだ作品や、「千字文」を盃1000枚に綴った『盃千字文』なども展示されます。

世界の時事問題に向き合い、「書で時代を書く」。後期【状況篇】の出展作品。

画像5:『エロイ・エロイ・ラマサバクタニ』 1972年

7月開催の【状況篇】ではどのような作品が展示されるのでしょうか。書は「文字を書くのではなく、言葉を書く表現」であると語る九楊。聖書の言葉を題材にした『エロイ・エロイ・ラマ・サバクタニ』、および続編の85mにおよぶ超大作『エロイエロ イラマサバクタニ又は死篇』をはじめ、日本の現代詩、また「忘れ去られた俳人」河東碧梧桐の句などの作品群が一挙に公開されます。

『「全顔社会」の恢復を願って』 2022年

このうち特に注目したいのは、現代社会の混沌や病理をえぐる最新の自作詩です。『「全顔社会」の恢復を願って』とは、新型コロナウイルス蔓延下に書かれたもの。また『「ヨーロッパの戦争」のさなかに──人類の未熟について』は、いまなお続くロシアによるウクライナ侵攻など、ヨーロッパでの戦争についての自作詩文を書きあげた作品です。

九楊はアメリカ同時多発テロ事件や福島第一原子力発電所事故などの時事問題に向き合うと、「書で時代を書く」べく、数多くの作品を発表してきました。

書という領域を超え、現代アートの領域からも高く評価!

『ざぼんに刃をあてる刃を入るゝ(いるる)』 2021年

九楊の作品は2020年、東京都現代美術館でアンリ・マティスなどとの『ドローイングの可能性』にて展示されるなど、書という領域を超え、現代アートの領域からも高く評価されてきました。

また「書」という営みを解明した「筆蝕論」は、書論・書史論にとどまることなく、表現論、日本語論、さらに現代を読み解く文化・文明論へと展開していて、英語や中国語に翻訳されるなど、世界からも注目を集めています。

『李賀詩 感諷(かんぷう)五首(五連作より)』 1992年

本展では2017年に上野の森美術館で開催された『書だ!石川九楊展』で公開されなかった作品 や、「妻を語る」シリーズ、「河東碧梧桐109句選」や「戦後史編」シリーズなどの新作も数多く出品。新たに将棋の駒に揮毫した作品を展示するほか、【古典篇】と【状況篇】のどちらにおいても大型の新作が発表されます。

現在における「書く」行為とその先に見えてくるものを問う九楊は、単なる前衛書を超越し言葉に立脚しながら、音楽のような絵画を思わせる世界を切り開いています。

「これが書?」と思ってしまうほど唯一無二の世界が広がる九楊の書に、上野の森美術館にて没入してください。

展覧会情報

『石川九楊大全』 上野の森美術館
開催期間:
 前期【古典篇】 遠くまで行くんだ:2024年6月8日(土)~6月30日(日)
 後期【状況篇】 言葉は雨のように降りそそいだ:2024年7月3日(水)~7月28日(日)
所在地:東京都台東区上野公園1-2
アクセス:JR線上野駅公園口より徒歩3分、東京メトロ・京成電鉄上野駅より徒歩5分
開館時間:10:00~17:00(最終入館時間 16:30)
休館日:7月1日(月)、7月2日(火)
入館料:一般・大・高生2000円、中学生以下無料
公式サイト:『石川九楊大全』 上野の森美術館

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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