STUDY
2022.2.24
西洋美術史を流れで学ぶ(第18回)~新古典主義編~
美術館はいわゆるフランス貴族の時代からのロングセラーで、ファミリーでのお出かけや、デートスポットなどで使われます。だから美術館によく行く、という人は結構いるんじゃないでしょうか。
ただ実は絵の前で鑑賞をしていても、意外と楽しみ方が分からないという方も意外と多いです。その理由の1つが「作品が作られた背景を知らない」ことかもしれません。ただ勉強しようとしても、世の中の解説本ってこれが結構難しいんですよね。
そこでこの連載では難しいと感じやすい西洋美術について、喋り言葉くらいの感覚でフランクに紹介していきます。前回はルイ14世がつくった美大・アカデミーについて紹介しました。
▼前回記事はこちら
西洋美術史を流れで学ぶ(第17回)~アカデミーとサロン編~
https://irohani.art/study/6691/
また前々回は「ルイ14世の死後に盛り上がったロココ美術」について書きました。
▼前々回記事はこちら
西洋美術史を流れで学ぶ(第16回)~ロココ美術編~
https://irohani.art/study/6473/
今回は前々回の続き、ルイ14世が亡くなった反動で生まれた開放感MAXで自由奔放な様式「ロココ美術」の後に出てくる「新古典主義」について紹介します。
目次
バロック・ロココの派手な表現の反動で生まれる新古典主義
新古典主義とは「おいみんな、いったん落ち着け。ローマ・ギリシャのころの重厚な表現を取り戻そうぜ」っていう考えのもとで流行った美術様式です。ここでの「古典」とは「ローマ・ギリシャのころの建築・彫刻」を指します。当時の建築ってのは装飾的なものはなくて、とにかく「シンプルかつ正確」でした。こうした「教科書通りの作品をつくろう」ってなったわけです。
ではなぜ、新古典主義が出てきたのか。前々回の記事をご覧いただくと分かると思いますが、18世紀初頭のロココ美術はとにかく思考がパリピです。ルイ14世による圧迫感のある治世から解放されたフランス貴族たちが「よっしゃ、自由だ! 豪華でゴッテゴテに装飾したインテリア作るぞ!」とか「愛人とイチャついているところを描いてくれ」みたいに発注することで作品ができていました。
Jean-Honoré Fragonard, Public domain, via Wikimedia Commons
ちなみにその前の16〜17世紀のバロック時代にはカトリック教会が信者を増やすために“かなり盛って”描かれたオーバーな表現の作品がよくつくられた時代だったんですね。つまり200年くらいにわたって、派手な表現に重きが置かれていたんです。
それに美大(アカデミー)の先生はもう半ギレ状態です。前回の記事でお伝えしたように、アカデミーの考え方は「古き良きルネサンス期の絵画を描こう」というものです。「派手な色彩表現とかもういいから。ちゃんとデッサンを学んで美しい『線』を選んで描きましょう」と考えていました。
ヘルクラネウムとポンペイの遺跡が見つかりレトロブームに
High Contrast, CC BY 2.0 DE, via Wikimedia Commons
そんななかイタリアでヘルクラネウム、ポンペイの遺跡が見つかります。当時の人たちからしたら大ニュースですよ。「古代人がおもろい!」みたいな。今だと月刊ムーくらいしか取り扱わなそうなニュースがイタリア全土を席巻します。ここで古代遺跡がブームになるわけです。
古代ギリシャ・ローマへの関心が高まるなか、ロココのときの熱狂はどこへやら、新古典主義の思想のもと「教科書通りのデッサンを大事にした絵を描こう」というのがブームになるんですね。
新古典主義の特徴は「しっかりデッサン」「理性的・倫理的」
では新古典主義の特徴はどんな感じなのか。主に以下のような特徴があります。
● 理性的で倫理観に即したテーマ
● 歴史画、神話画、肖像画などの道徳的なモチーフ
● しっかりとしたデッサンと正確な線で描かれる写実主義な絵
● 誰が見ても安心できる上品さ
まずは「思考」ですが、これは「倫理観を大事にしよう」というものでした。古代ギリシャ人・ローマ人は「丁寧な生活をして徳を積んでいこ!」みたいな風潮だった。そこで新古典主義では、まず芸術家の姿勢として「理性的に生活してください」となったわけです。
こうした思考に基づいて作品がつくられます。なので過度に派手でない色彩で描かれており「しっかりデッサンした『正確な線』」のほうに重きを置いています。またロココのときにはかなり甘美なムードが漂っていましたが、新古典主義になってテーマも重厚になります。
新古典主義を創始したダヴィッド
ジャック=ルイ=ダヴィッドの自画像, Public domain, via Wikimedia Commons
では、そんな一世を風靡する「新古典主義」は誰が確立するのか、という話をしていきましょう。まず創始者はジャック=ルイ=ダヴィッドさんです。この人の代表作で、世界史の教科書に100%出てくるのが「ナポレオンの肖像」ですね。
ジャック=ルイ=ダヴィッド『サン=ベルナール峠を越えるボナパルト』, Public domain, via Wikimedia Commons
線も構図も、めちゃくちゃ正確に描かれているのが分かると思います。このように初期の新古典主義では「英雄像」を描くことが好まれました。この時代はフランス革命が起き、ナポレオンが活躍する時代であり、世の中が「英雄って超かっけぇ」となってる時代だったんですね。「なりたい職業」があったら、ぶっちぎりで「英雄」が1位でしょう。
とはいえ「ナポレオンカメラ目線過ぎんか?」と疑問が湧くのも確かです。新古典主義では写実性が重視されてはいますが、戦場でこんなにカメラのほう向くのは「逃走中」くらいでですよね。
というのも、新古典主義の描く「教科書のような絵」は、実はナポレオンのプロパガンダ(政治的宣伝)に利用された側面があるんですね。重厚なタッチで描くことで、やっぱりかっこよく見えますからね。
ジャック=ルイ=ダヴィッド『ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠』, Public domain, via Wikimedia Commons
新古典主義を確立したアングル
ドミニク・アングル『24歳のときの自画像』, Public domain, via Wikimedia Commons
そんなダヴィッドの弟子で、新古典主義をジャンルとして確立したのがドミニク・アングルです。ダヴィッドが新古典主義的な表現を生み出したとするなら、アングルはジャンルとして確立させた存在です。
「色彩より線」という考えを追求し、彼は「線の巨匠」といわれるようになるんですね。ちなみにこの時代は「色彩は直感」「線は理性」という共通認識がありました。詳しくは次回の記事で紹介します。
この両者でいうとアングルは完全に後者なわけです。新古典主義の基本であるデッサンを追究した人で、すんごい正確無比な絵を描きます。
ドミニク・アングル『玉座のナポレオン』, Public domain, via Wikimedia Commons
この『玉座のナポレオン』を含めてアングルの絵は「シンメトリー」のものが多いです。これはラファエロの影響といわれます。アングルはラファエロについて「あれもう人じゃなくて神だろ。本当に実在したんか?」というくらい尊敬していました。
ラファエロ・サンティ『アテナイの学堂』, Public domain, via Wikimedia Commons
シンメトリーのほか「〇」を基調として構図を作っている部分も「あぁラファエロの熱狂的フォロワーなんだなぁ」と思わせますね。
新古典主義VSロマン主義の真っ向対立へ
さて、今回は新古典主義についてご紹介しました。次回はそんな教科書通りで理性に重きをおいた新古典主義に対抗して出てくる「ロマン主義」です。画一化された絵の描き方に比べて「もっと個人の感覚を大事にしろや!」と出てきた考え方になります。
▼次回記事はこちら
西洋美術史を流れで学ぶ(第19回)~ロマン主義編~
https://irohani.art/study/6843/
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アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。
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