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2023.5.31
太田記念美術館にて展覧会が開催!ポールジャクレーの新版画、華やかな色彩の世界への招待。
フランス・パリに生まれ、3歳の時に来日し、64歳にて亡くなるまで日本で暮らした画家、ポール・ジャクレー(1896〜1960年)。1929年から1930年代後半にかけて、ミクロネシアの島々や朝鮮、また中国などにしばしば滞在すると、市井の人々の暮らす様子を鮮やかな色彩で描きました。
目次
東京・神宮前の太田記念美術館では、ジャクレーの新版画に焦点を当てた『ポール・ジャクレー フランス人が挑んだ新版画』を開催。その作品のユニークな個性と魅力とは? 人生の歩みとともに紹介します。
幼い頃から浮世絵に親しんでいたジャクレー。30代後半にして新版画の道を志す。
フランス語の教官のお雇い外国人だったフレデリックを父にもつジャクレー。教育熱心だった父と母ジャンヌの溺愛のもとに育つと、東京高等師範学校の附属小学校に入学します。その後、附属中学校に進むと、日本語をよどみなく話し、読み書きもトップクラスの成績をおさめました。
幼い頃から浮世絵に関心を抱き、作品を収集したり模写していて、10代にして月岡芳年の孫弟子である池田輝方・蕉園夫妻から日本画を学び、喜多川歌麿風の肉筆美人画を制作しました。
24歳にして東京のフランス大使館にて働きはじめたジャクレーは、次第に芸術への志向を強めると、絵師自らが絵を描き、彫り、また摺って創作しようとする創作版画に傾倒します。そして創作版画の作家とも親しくするものの、やがて離れて、絵師、摺師、彫師の共同作業の伝統に則りながら、新しい表現を求めようとする新版画を手がけるようになります。最初の木版画『サイパンの娘とヒビスカスの花、マリアナ群島』を刊行したのは38歳の時でした。
ミクロネシアやアジアの人々のすがたを瑞々しい色彩にて描きとる。
大正から昭和にかけて隆盛した新版画は、渡邊庄三郎のような版元が制作を主導するのが一般的でしたが、ジャクレーの場合は、自らが彫師と摺師を指揮する私家版という珍しい手法を取ることで、独自の芸術性を追求しました。
ポール・ジャクレー「檳榔の実、ヤップ島」(個人蔵)(c) ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2023 E5060 後期展示
ジャクレーが新版画の題材としたのは、サイパン島やヤップ島といった南洋のミクロネシアの島民、あるいは朝鮮や中国といったアジアの人々のすがたでした。30代前半となる昭和初期、日本の委任統治領となっていた南洋の島々に度々長期にわたって滞在すると、島民たちと親交を深めながら、数多くの水彩画を描いていて、それをもとに新版画を制作していきます。
仕事に対して常に厳格であったジャクレーは、工房でも彫師や摺師のそばを離れることなく、版画制作の全工程に目を光らせました。そうした生み出された作品の最大の魅力は、赤や水色、黄色や紫などがぶつかり合うような色彩の瑞々しさです。
ポール・ジャクレー「打ち明け話の相手、連作「満州宮廷の王女たち」より」(個人蔵)(c) ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2023 E5060 前期展示
使用する絵具や摺りの仕上がりにもこだわり、金粉や胡粉(ごふん)といった貝の粉を用いてより美しい質感を求めていきます。そして鮮やかな色彩を出すために、実に200回以上の摺りを重ねることもありました。「私の版画は少なくとも千年はもつように作られている」との言葉も残しています。
海外でも人気を博したジャクレーの新版画。首都圏で初めて全162点が公開!
ポール・ジャクレー「貝を持つファララップの女」(個人蔵)(c) ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2023 E5060 後期展示
1941年に太平洋戦争が勃発すると、外国人だったジャクレーは憲兵によって監視され、のちに軽井沢へ疎開して半自給自足の不自由な生活を送りました。また戦争中、東京にあった自宅とアトリエは空襲にて全壊してしまいますが、素描やスケッチ、水彩画のほとんどは軽井沢へと運ばれていたために難を逃れました。
ポール・ジャクレー「極楽鳥、セレベス」(個人蔵)(c) ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2023 E5060 前期展示
戦後に制作を再開すると、進駐軍向けにも作品が販売され、1947年にはグアムからロサンゼルス、ニューヨークにオーストラリアのパースなどでも個展が開かれます。ジャクレーの作品の人気は高まり、発売時の10倍の値段で取引されることもありました。
ポール・ジャクレー「オロール島の少年、東カロリン」(個人蔵)(c) ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2023 E5060 前期展示
1954年には再びアジアやミクロネシアの人々を題材にした作品を描こうと、香港からオーストラリア、タヒチ、さらに南米と北米をまわる長い旅に出ます。翌年に帰国し、120点という新たな版画シリーズに着手しようとするも、すでに襲われていた糖尿病によって1960年に亡くなりました。
ポール・ジャクレー「オウム貝、ヤップ島」(個人蔵) 後期展示
太田記念美術館の『ポール・ジャクレー フランス人が挑んだ新版画』では、遺族から特別な協力を得て、ジャクレーの描いた全162点の新版画が前期と後期に分けて展示されます。なお国内にて全点公開されるのは、軽井沢町追分宿郷土館で開催された『軽井沢を愛したフランス人浮世絵師 ポール・ジャクレー全木版画展』(2021年)以来のことで、首都圏では初めてとなります。
近年、川瀬巴水や橋口五葉、吉田博といった作家による新版画は人気を集め、展覧会が開かれる機会も増えましたが、さまざまな国の老若男女が暮らすすがたを鮮やかな色彩で描いたジャクレーの作品は、当時の新版画の中でも異彩を放っています。
ポール・ジャクレー「太平洋の神秘、南洋」(個人蔵) 前期展示
デジタルの色彩に慣れた現代人にとって、むしろ新しく見えるジャクレーのきらめく新版画の世界を味わってください。
※参考文献:「ポール・ジャクレー」 横浜美術館(企画・監修)、淡交社(発行)、2003年5月(出版年月日)
展覧会情報
『ポール・ジャクレー フランス人が挑んだ新版画』 太田記念美術館
開催期間:2023年6月3日(土)〜7月26日(水)
※前期:6月3日(土)〜6月28日(水)、後期:7月1日(土)〜7月26日(水)
※前期と後期で全点入れ替え。
所在地:東京都渋谷区神宮前1-10-10
アクセス:JR線原宿駅表参道口より徒歩5分。東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩3分
開館時間: 10:30~17:30
※入館は17:00まで
休館日:月曜日、6月29日~6月30日(展示替えのため)
観覧料:一般1000円、大高生700円、中学生以下無料
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp
画像ギャラリー
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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