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2022.12.22

今日の社会の現実がそこにある!『六本木クロッシング 2022展:往来オーライ!』

『六本木クロッシング』とは森美術館が3年に一度、日本の現代アートシーンを総覧する定点観測的な展覧会として、 2004年以来共同キュレーション形式で開催してきたシリーズ展です。

SIDE CORE/EVERYDAY HOLIDAY SQUAD 《rode work ver.tokyo》 2018/2022年

現在、六本木・森美術館にて開催中の第7回目となる今回の展覧会では、1940年代〜1990年代生まれの日本のアーティスト22組の作品約120点を紹介しています。

すでに国際的な活躍が目覚ましいアーティストたちから今後の活躍が期待される新進気鋭の若手まで、創造活動の交差点となる会場の様子をお届けします!

多様な人や文化が共存する日本

青木千絵 展示風景

長引くコロナ禍により私たちの生活は大きく変化し、これまで見えにくかったさまざまな事象が日本社会の中で顕在化しました。

以前は当たり前のように受け入れていた身近な物事や生活環境を見つめ直すようになったり、共にこの怒涛の時代を生きる隣人たちの存在とその多様さを強く意識するようになりしました。

呉夏枝 《海鳥たちの庭》 2022年

そして今後、人流が回復し新たな文化の展開が期待されるなか、あらためて現在の「日本」にはさまざまな民族が共生し、この地に塗り重ねられた歴史や文化が実はすでに色とりどりであることについて再考が求められるでしょう。

その先に私たちはどのような未来を想像し、また共に作っていくことができるのでしょうか。

社会像を考察するための3つの鍵

横山奈美 「Shape of Your Words」シリーズ 2022年

本展覧会ではコロナ禍を経て浮かび上がる社会像を考察するための “本展を紐解く3つの鍵” が存在します。

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本展のキュレーター4名のコロナ禍を起点とする議論により、考察すべき3つのトピックで展覧会が構成されており、会場では順路にセクションわけはなく、複数のトピックスにまたがる作品もあります。

そんなさまざまな展示作品約120点のなかで、特に筆者が気になった作品をご紹介します。

コロナ禍を経て加速していくテクノロジーを用いた作品

市原えつこ 《未来SUSHI》 2022年 

市原えつこさんによる《未来SUSHI》は、ロボットを使用したSF的なインスタレーションで、未来の寿司の消費について懸念する作家自身のシュールなアイディアから生まれたそうです。

《未来SUSHI》は、コロナ禍で多くの寿司屋やレストランなどの飲食店が閉店したこと、そして環境危機や乱獲問題を踏まえて、私たちの喜びと基本的なニーズである「食」の未来に対して注意喚起します。

やんツー 《永続的な一過性》 2022年

また、やんツーさんによる出品作品は、機械に人間の行為を代替えさせるインスタレーションで、自律搬送ロボットが多様なオブジェの中から1つ選択し、展示・撤去するというものです。

物流業はコロナ禍でネットショッピングの急増と感染対策の観点から無人化・自動化が加速しましたが、対照的に美術業界ではコロナ禍を経ても手作業での展示作業という伝統が守られています。

本作品では、貴重であるはずの作品とそうでないものを区別せずに機械が選択して展示します。そこには人間中心主義から脱却できる可能性と希望と共に、作品が単なる物として扱われる残酷さを表現しています。

人の背景(LGBTQ+・多文化性)にあるものに触れた作品

キュンチョメ 展示風景

アートユニットのキュンチョメによる映像作品《声枯れるまで》は、出生時に割り当てられた性別と異なる性として生きる人やXジェンダーの人々が登場し、生い立ちや昔の名前に対する違和感、新しい名前の由来や改名時の両親の反応など、葛藤や希望を語っています。

「ダイバーシティ」や「LGBTQ+」という言葉を意識した取り組みが加速する一方で、そうした言葉の影に隠されてしまう見えにくい差異も含め、さまざまな人たちが共に暮らす社会の姿を考察しています。

伊波リンダ 《searchlight》 2019-2022年

ハワイ生まれで沖縄系2世の父と、移民先のテニアン島で生まれた母のもと、4つの語源を使い分ける家庭環境で育った伊波リンダさんによる出品作品は、自ら居場所を放浪することになった経験とともに、伊波さんにしか捉えられない多層的な眼差しで表現されています。

沖縄をめぐる写真はこれまでも当事者の眼差しか、あるいは外部の眼差しかが議論されることがありました。しかし、内と外かといった二項対立に集約される構図は、伊波さんの写真作品からは感じられません。

最後に…

青木野枝 「coreシリーズ」2022年 Courtesy: ANOMALY(東京)

本展覧会から多様で時に相容れない要素が複雑に絡まり合う今日の社会の現実を目の当たりにしました。

複合的な視点をもって描き出される作品のように、自分の視点も養っていきたいという想いとともに、どんな未来を形作ることができるのか、思いを馳せに本展覧会に足を運んでみてはいかがでしょうか。

会期中には、本展覧会で重視したコンセプトや展覧会の舞台裏などを語ってくれるキュレータートークや自作について語ってくれるアーティストトークなどの展覧会関連プログラムが開催されます。

ぜひそちらも合わせて参加し、本展覧会への理解を深めてみてくださいね。


取材・撮影・文:新麻記子

展覧会情報

「六本木クロッシング 2022展: 往来オーライ!」
会期: 2022年12月 1日(木)~2023年3月26日(日)
会場: 森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
開館時間: 10:00-22:00 (火曜日のみ 17:00まで。ただし 1月3日[火]、 3月21日 [火・祝] は 22:00まで)
*入館は閉館時間の30分前まで *会期中無休
*当館の新型コロナウイルス感染症対策への取り組みについてはウェブサイトでご確認ください。
https://art-view.roppongihills.com/jp/info/countermeasures/index.html/

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新 麻記子

新 麻記子

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アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。

アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。

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