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STUDY

2022.7.6

西洋美術史を流れで学ぶ(第29回)~現代アート編~

「西洋美術の歴史」を、フランクに分かりやすくお伝えしていくこの企画。前回の第28回は第一次世界大戦終了後から、第二次世界大戦にかけてのアートの歴史をヒトラーの弾圧と共にお伝えしました。

▼前回の記事
西洋美術史を流れで学ぶ(第28回)~バウハウスとヒトラーによる弾圧編~
https://irohani.art/study/7906/

今回は第二次世界大戦が終わった1950年代から1990年代までの歴史について語らせてください。いわゆる「現代アート」と呼ばれる時代が始まる年代です。「いや、もう一つにまとめるのとか無理よ」ってくらい混沌としています。そのなかから主な運動とアーティストを抜粋してご紹介していきましょう。

「なぜ現代アートにたどり着いたのか」をあらためて振り返る

「現代アート」は広義でいうと、1950年代から現在までのアート運動を指します。

これまでの歴史って「ルネサンス」とか「ロココ」とか「印象派」とか……ある程度「この時代に流行ったのはこれ!」っていう様式がありました。ただ現代アートはもう超カオスです。世界各地で常に新しい表現主義が生まれ、どれがメインストリームかすら、もう分からん状態になっています。

「じゃあどんな様式があるの?」ってのをざっくり並べると、以下の表のようになります。

現代アートの様式

名前 開始時期特徴
カラーフィールド・ペインティング1950年代末から1960年代大胆な色彩でキャンバスに「フィールド」を作り出す抽象絵画
大胆な色彩でキャンバスに「フィールド」を作り出す抽象絵画1950年代後半主に戦争のトラウマを呼び起こして描かれた幻想絵画
ミニマリズム1960年から70年代初頭作品の完成度を高めるためにあえて省略化して作られるアート作品
ネオ・ダダ1950年代後半から1960年代アメリカや日本でおこなわれた不条理性を追究する反芸術運動
ポップ・アート1960年代大量生産・大量消費時代をテーマとする芸術様式
コンセプチュアル・アート1960年代から1970年代作品を生み出すアイディア・コンセプトに重きを置いたアート様式
アスキーアート1960年代後半文字組みを生かしてビジュアライズする手法。顔文字も含まれる
パフォーマンス・アート1960年代作者自身の身体を作品として扱うアート
ソフト・スカルプチュア1960年代柔らかい素材で彫刻をつくるアート運動
スーパーリアリズム1970年代写真をもとに克明に絵画を描くことで写真そのものに近づける手法
ホログラフィー1970年代前半写真の「ホログラム」を使ったアート運動
ボディ・アート1970年代前半人体を使って、主に絵を描くスタイルのアート
フェミニズム・アート1960年代後半~1970年代女性の生活を反映した作品をつくるアート。主に美術史での女性の地位向上を目的にした
アウトサイダー・アート1970年代芸術の教育を受けていない芸術家たちが起こしたアート
インスタレーション・アート1970年代屋内外の空間全体を使って表現をするアート
ローブローアート1970年代後半アングラ漫画やヒップホップを起源に起こったユーモアや風刺の多いアート
ワイルドスタイル1970年代後半複雑な文字組みを特徴とするグラフィティアート
ニュー・ペインティング1980年代1920年代のドイツ表現主義のリバイバルとして起こった運動
シミュレーショニズム1980年代かつての他者の作品を盗用、サンプリングして作るアート
フラクタル・アート1980年代コンピュータの「フラクタル」を生かして作品をつくる運動
グラフィティ・アート1980年代主に路上の壁などにスプレーで自分の名前やイラストなどを描くアート
トランスグレッシブ・アート 1980年代あえて反社会的・犯罪的な行動をすることで道徳心をあおる運動
トランスアバンギャルド1980年代イタリアで起こった新表現運動。主に「喜び」を意識した表現を特徴とする
シニカル・リアリズム1990年代主に中国で起こった、社会や制度をシニカルな視点で風刺した運動
マス・リアリズム1990年代ポストモダンにマスメディアやポップアートを織り交ぜた芸術運動
バイオ・アート1990年代遺伝子、クローンといったバイオ工学を生かしたアート
ネグリチュード1990年代アフリカ・カリブ系黒人による植民地・政治に対する運動
ソフトウェアアート1990年代コンピュータソフトを駆使して作品を作るアート様式

これはあくまで「一部」です。本当はもっともっとある。2022年の今でも世界のどこかで新しい表現が生まれ続けています。多様化ってのは素晴らしいですよね。こう、「自分の思想を、自分の好きな手段で発信できる」という自由さを感じます。

現代アートがここまで多様化できた理由

では、なぜアートは、ここまで多様化したのか。その理由を3つに分けて紹介してみましょう。

自分の内面を発信できる状態になった

まず、この連載でも紹介してきましたが、19世紀を境に「芸術作品のあり方」が大きく変わった点があります。

19世紀以前は「自分の好きなことを好きに表現する」というのは稀です。国とか教会とか金持ち市民の依頼を忠実に再現することがアーティストの仕事でした。完全にクライアントワーク。「依頼主に言われた通りのデザインで描く」というのがルールだったんですね。

また当時は識字率がまだまだ低い時代です。カメラができる前、「絵」は情報伝達の貴重な手段であり「世間のことをみんなに伝える」というのも、アーティストの仕事でした。そんな時に前衛表現をしても「なんのこっちゃ?」ですよね。新聞のスポーツ欄で「大谷翔平、さよならホームラン!」と書いてグニャグニャのバットと、ピカソの絵みたいな顔の大谷翔平を描くようなもんです。「なんのこっちゃ」なわけです。メディアとしてものすごく機能していたからこそ、保守的な表現になっていたという背景もあります。

ただ19世紀になって「デカいパトロンから仕事をもらう」というより「自分の作品を気に入ってくれた画商から仕事をもらう」という方向性にシフトチェンジした。また教育体制ができてカメラもできた。

すると「個人的な体験・思想」を作品に落とし込むことを重視するようになるんですね。そしたら「作風もモチーフも素材も、アーティストによってさまざま」という状況になります。で、その結果気に入ってくれたパトロンが仕事をくれる、という感じで細分化されていくわけです。

その流れが20世紀に入ってからも続いていき、多様化が進みました。

メインストリームとカウンターカルチャーの歴史

で、次々に新しい表現ができるわけです。すると「カルチャー」になるものも現れます。 例えばあの、渋谷の裏路地とかに100パー描いてあるグラフィティアートは、もともと黒人のヒップホップの一部ですが、今でも日本で次々に描かれてますよね。役所の人が消しても消しても描かれる。バンクシーは大ブームです。これは立派な「カルチャー」になったといえます。

こうしたカルチャーが生まれると、必ずといっていいほど「いやその思想には反対。マジ遺憾の意なんですけど」と「カウンターカルチャー」が出てきます。以前の記事でたとえると、「ロココ美術」という超派手で華麗な装飾の芸術様式に対して「新古典主義」という、落ち着いた重厚な様式が出てきた。みたいな感じです。「ロココ浮かれすぎやろ、おい」とツッコんだわけですね。こうしてメインストリームが次々に塗り替わるのが文化の歴史です。

現代アートのように様式が細分化されると、そのぶんカウンターも増えます。メインストリームとカウンターカルチャーの争いで、新たな運動が増えていった、という背景もあります。

テクノロジーの進化で「新しい表現」にチャレンジしやすくなった

また多様化した背景として大きいのは、やっぱり「産業革命」「技術革命」です。上の表でもある通り、カメラ、ビデオ、コンピュータと、時代を追うごとにいろんなデバイスが登場しまくった。機械も進化し続けている。「作品をつくる手段」自体が増えたんです。するとアーティストも「新しいこと」にチャレンジしやすくなったんですね。

その結果、1950年代以降はこんなにもカオスな状況になったわけです。

現代アートの分野で活躍したアーティスト

現代アートは幅が広い分、代表的なアーティストもめちゃめちゃ増えているわけですが、ここではなかでも有名なアーティストを紹介します。「名前はよく聞くけど、結局あの人って何がすごいんすか?」っていうもやもやをざっくり解消できたらと思います。

アンディ・ウォーホル

アンディ・ウォーホル Unknown (Mondadori Publishers), Public domain, via Wikimedia Commons

現代アーティストのなかでも最も成功した芸術家の一人、アンディ・ウォーホルは「ポップアートの巨匠」です。上の表でも書いた通り、ポップアートとは「大量生産、大量消費社会」について描かれた作品を指します。

キャンベルのスープ缶 Thomas Altfather Good, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

よく見るのは「キャンベルのスープ缶」ですよね。大事なのは「この缶自体のデザインをしたわけではない」ということ。キャンベルのスープ缶自体はもともと存在していて、日本でいう「味の素」レベルで各家庭にあります。ウォーホルにとっては、これこそ大量生産・大量消費の象徴だったわけです。つまり「人間が機械のように仕事帰りにスープを買い、夕食時に飲む」という行動について描いたんですね。

もう一点、大事なのは彼はこの大量生産大量消費に警鐘を鳴らしたわけではないということ。むしろ肯定的です。彼は「ファクトリー(工場)」と名付けた工房で「シルクスクリーン」という印刷技術を用いて大量の作品をつくりました。また「機械になりたい」と発言しています。

この現代社会を肯定することで、ウォーホルの作品は「アートに興味がなかった大衆」をも惹きつけた。その結果、世間に受け入れられたんですね。

ジャン=ミシェル・バスキア

ジャン=ミシェル・バスキア(1984)Galerie Bruno Bischofberger, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

日本でも人気の黒人アーティスト、バスキア。最近だと、あのやたらお金配るおじさんが約123億円で「Untitled」を落札したのがニュースになりましたね。ハイチ系アメリカ人でニューヨークのブルックリン生まれの彼は、あえて分類すると「グラフィティ」や「新表現主義」といったジャンルで活躍したアーティストです。色使いやモチーフを抽象化した作風にはアフリカンアートの雰囲気も漂う。さまざまなバックボーンがあって、自己流に落とし込みました。

もともとはスラム街の壁などにスプレーで描いていましたが、後期はウォーホルと共作するなどアートシーンでの評価を高めていきます。しかしだんだんとヘロインの摂取をするようになり、マブダチのウォーホルが亡くなると、さらに孤独感に苛まれます。27歳でヘロインの過剰摂取により死去。彼が活躍した期間はたった10年くらいですが、いまだに世界中から支持される芸術家です。

ジャクソン・ポロック

ジャクソン・ポロック Smithsonian American Art Museum, Public domain, via Wikimedia Commons

ジャクソン・ポロックはアメリカ抽象絵画の画家です。彼の全盛期は厳密にいうと1940代後半なんですけど、ここでは現代アーティストの一人として紹介します。

彼の作風は「アクション・ペインティング」です。キャンバスを床に置いたり、壁に立てかけたりして、絵の具を垂らしたり、散らしたりして描きます。

スティーブンス・ヴォーンのアクションペインティング Stevens Vaughn, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

この手法の背景には、以前紹介した「シュルレアリスム」があります。第二次世界大戦のなか、ポロックは戦禍を逃れてアメリカに来ていたパリのシュルレアリストたちと交流し、この手法にたどり着きました。シュルレアリスムの精神は「無意識」の状態で作品をつくること。筆で塗るのではなく、あえて絵の具を垂らしたり散らしたりすることで、自分の意識しない仕上がりになるわけですね。

この手法は抽象絵画としてめちゃめちゃ評価され、ポロックは「アメリカを代表する画家」ともてはやされます。しかし彼にとってそれはプレッシャーであり、1950年代からだんだんとメンタルをやられてしまう。最期は酒に酔った状態で笑いながら車を走らせ、友人もろとも事故を起こし亡くなってしまいます。

ジャスパー・ジョーンズ

コラージュやドローイングを組み合わせて作品をつくる芸術家です。「星条旗」を描いた「旗」シリーズが有名ですね。星条旗を組み合わせたり、白で統一したり、背景に新聞紙を敷いたり、さまざまな形で表現しています。すでに全員が知っているモチーフを使って、インパクトのある作品を作り出す、という動きは「シミュレーショニズム」といいます。

ダダイズムの時代にはヒトラーの顔を切り抜いて使うこともありました。また今でもヒップホップ音楽では、他者の過去作品を使う「サンプリング」という文化がありますが、これも「シミュレーショニズム」の1つです。バングラデシュの国旗は日の丸を参考にデザインしたそうですが、これも一種のシミュレーショニズムかもしれませんよね………あれですよ? はっきり明言しないのは、なんか怒られそうで怖いからです。

バングラデシュの国旗

そのほかジャスパー・ジョーンズは「ダーツの的」を描いたり、数字をデザインしたりしています。その思想はネオダダイズムに分類されることが多いですが、作品はポップアートともいえるのが特徴です。

アメリカではそのメッセージ性が高く評価されており、現代アーティストの巨人の一人とされています。日本文化にも高い関心を持っており、1979年から2004年にかけて「Usuyuki(薄雪)」というシリーズを制作しています。ちなみにご存命です。

マーク・ロスコ

ラトビアの切手に描かれたロスコの肖像 Latvijas Pasts (Latvian Post), Public domain, via Wikimedia Commons

ラトビアで生まれ、アメリカで活躍した現代アーティストの1人です。ロスコはユダヤ系なのですが、彼が幼少期を過ごしたロシアではまだ差別 が残っていた。そんなコンプレックスを持ちながら、彼はフリードリヒ・ニーチェやフロイト哲学に没頭しながら「人の空虚性」に興味を抱くようになります。そしてその空虚性を緩和することを目標としました。

作品は抽象絵画なのですが、全体的にものすごく寂しい雰囲気が出ています。少ない線で描かれた人物も物悲しい雰囲気が漂う。でも「それが絵本っぽくてかわいい!」という声もあったり。あの「奈良美智の描く女の子が若い女性に超人気になる」みたいな感じで日本でも人気が高い画家の1人です。

ゲルハルト・リヒター

ゲルハルト・リヒター(2017年) Jindřich Nosek (NoJin), CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ゲルハルト・リヒターはドイツ出身の画家です。油彩画や写真といった手法だけでなく、ガラスや鏡などの素材を用いて作品をつくります。抽象絵画だけでなく、具象を織り交ぜながら作る作品は見た目のインパクトだけでなく、ホロコーストを経たから分かるメッセージ性も含まれています。世界中の若者から愛されているアーティストです。

現代アーティストは決して「ヤバい人」じゃないんだよ

今回は1950年代以降の現代アートについて紹介しました。どの作品もインパクトがあって面白いですよね。アートに理解がある方であれば、おもしろがれるんじゃないかしら、と思います。

現代アートの多くは「まだ世に無い表現を見つけて追求する」という思想をもとに制作されています。だからチャレンジングというか、実験的な作品が多くなるんですね。例えば「トランスグレッシブ・アート」なんか、あえて不快感を覚える表現をしたり、倫理・道徳に反することをするっていう、完全ヤベぇ表現様式です。

だからアートに馴染みがない方って「現代アートってなんかついていけないわ。あれでしょ?『人に理解できないことを理解している俺かっけぇ』的なやつでしょ?」と思うかもしれません。あの、金髪マッシュに黒ぶち眼鏡の「僕フランス映画好きなんだよね」系男子と同じ空気を感じるかも。

でも、現代アーティストは誰しも、その作品を表現するためにいろんな挫折や葛藤を通過しているんですね。その先にあったのが、独自の表現だったわけです。その部分を理解すると、作品がおもしろく見えてきます。ですので、中世~近代美術の展覧会によく行く方もいったん頭を空っぽにして現代アートの展覧会に足を運んでみるのもいいでしょう。


次回はいよいよ最終回です。これまでの歴史を改めて振り返ってみるとともに「2022年、アーティストのあり方」はどう変わっているのかを個人的に考えてみます。

ジュウ・ショ

ジュウ・ショ

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アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。

アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。